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ノンオブラートレポート ― 「ドミニオン」のルールが持つ完成度について

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あくまで私の個人的な考えなのだけれど、「ドミニオン」は非常に完成度の高いルールを持っている。

今回はこれについてまとめる。

完成度

一重に「完成度」といっても、それが指す意味は様々ある。本作においては、基本ルールが持つ強固さを指す。

デッキ構築というジャンルを確立した本作は、カードを獲得し、デッキを強化して強くしていく、というゲームルールはその中に内包する1つ1つの細かなメカニクスが相互に作用し、追加ルールにもほぼ問題なく適応する。

強固さとは、汎用性の高さでもある。基本ルールとしてシンプルに構成されていながら、複雑なゲームプレイを生み出す。

基本的なカードゲームはカードをドローして、出す。この繰り返しである。そこにそれぞれの独自性を出すために、カード効果や処理に手を加える。本作もそれにあまり違いはないが、コアに「カードの購入」と「デッキ構築」というメカニクスを埋め込むことによって、独自のジャンル、形態を確立できたといえる。

カードゲームにもそのルールに特色のあるゲームはいくつもある。ボーナンザ、魔法にかかったみたいなどがそうだが、そのフォロアーは少ない。2作品ともそのゲームとして、ルールもさることながら、コンポーネントも含めて、その全てで1つの作品として完成されている。

ジャンルとして確立する。それは基本ルールとして汎用性が高く、いかに強固に組み上げられているかがカギとなる。

周知・共有

「そのカードがどういう処理をするのか?」というのは、カードゲームにつきものな問題だ。処理がテキストで書かれているゲームでなら、尚更。それぞれが手札として持っており、カード種類が多いと、ゲームはじめてのプレイヤーがカードについてどういう処理をすればいいのかわからない場合、それを共有できないままゲームが進むことがある。

共有するという事は情報を開示することであり、ゲーム的に不利になるからだ。別段それを気にしない人もいるが、気にする人ももちろんいる。また、解釈の違いにより、そのカードがある前提で行動し、結果としてゲーム終了間際でそれに気づく、ということもある。

本作では、セットアップの段階で全てのカードが市場として場に出る。わからないカードがあったり、はじめての人がいたらそれぞれの説明を行うことができる。この時点でそのゲームに出てくるカード効果を全て説明しているはずで、また開示もされているのでゲーム中に再度聞くこともできるし、処理を間違えていたり解釈を間違えていても、それはすぐに訂正できるわけだ。

これは同時に、ダウンタイム、それぞれのプレイヤーの負荷低減にも役立つ。一般的なテキストを処理するタイプのカードゲームでは、ターン毎に各プレイヤー手札が更新される。つまり手札にあるカードが変わる。これは当たり前なことだけれど、負荷という面から見ると考慮すべき問題だ。

ダウンタイム

話の続きになるが、カードゲームにおけるダウンタイムはどこから起こるのか。

そもそもボードゲームにおけるダウンタイムは、思考時間だ。そして負荷でもある。それぞれのカードをどの順番でプレイするのか、他人がそれによってどういう影響を及ぼすのか、ゲーム終了条件まで何手でいけるのか、ここで購入するカードとそれが機能するまでの時間と、その効果を享受できる回数は何回か。

様々あるが、最も負荷のかかるのが、「カードの理解」である。まずカードのテキストを読む。文章として。次に理解する。ゲームルールとして。この二段階を、手札が5枚あり、それぞれに行う。

多くのカードゲームが「前ドロー」である。ターン開始時にカードをドローする。そして、テキストを読む。噛み砕き、理解する。次に既存手札と比べる。新しく入ってきたカードの評価をしつつ、これまでのカードと比べ、これまた評価する。ここまできて、ようやく「実際の行動を思考」しはじめる。結果、ターン毎に数分の思考時間、つまりダウンタイムが発生することになる。本作ではカードの説明を最初に行い、全員が理解して始める(はず)なので、このダウンタイムがぐっと短くなる。また、一人のプレイヤーがデッキに入れるカードの種類も限られる。

本作、ドミニオンは「後ドロー」である。つまり、ターン開始時の手札を使ってカードプレイ、アクションを実行し、ターン終了時に規定枚数までドローする。これはつまり、次の自分の手番までに、手札を理解し、今後の手を思考することができるということだ。

また、「後ドロー」であるということは、別の部分でも機能する。攻撃カードによる手札を捨てる処理だ。「前ドロー」であればこうは機能しない。

1つのメカニクスがいくつもの要素に作用する。非常に効率的に設計されていると思う部分だ。

デッキ構築

さて、コアであるデッキ構築に触れよう。とはいえ、このメカニクス自体は複雑なわけではない。ゲーム中にそれぞれのカードデッキが強化されていく。本来であればTCGが持つ、デッキ構築という楽しさをゲームのコアに据え、メカニクスの一部にする。言うのは簡単だが、ゲームルールとして完成させ機能させるのは一言、すさまじいという他ない。

カードゲームにおいては「カウンティング」が非常に重要になる。つまり、何を獲得して、何を使用したのか。自他を含み考慮していく。これが楽しさの一つでもある。デッキ構築では、どのプレイヤーがどのカードを購入したのかがわかる。これはつまり、今回のゲームにおいてどういう戦略を取るのか、どういう優先順位をしているのか、中長期的な計画を知ることができる、ということでもある。

本作はこのルールによりTCG的な楽しさもまた内包している。そことも比較してみる。TCGではゲーム外でデッキ構築を行う。数多のカードからデッキに入れるものを選ぶ。それによってデッキは変化する。人によって一点特化するものもあるだろうし、様々なデッキに対応するように汎用性の高くなるものもある。それらが相手に通じるだろうかの「答え合わせ」的な楽しさがあるわけだ。

本作では、それをゲーム内のコアにしている。ゲーム初期時点では全員同じデッキから始まり、進行に合わせて購入していくカードによって強化されていく。どういうデッキを作るのかという本人の楽しさ、相手がどういうデッキを作るのかという読み、そしてそれがどう動いていくのかという思考。どちらのデッキの強いのかという本質は変わらないが、それを構築途中からやり取りできる楽しさ、というのはデッキ構築特有の特徴になっているだろう。

点数カード

一般的に、勝利点はそれ専用で管理する。点数ボードであったりカードであったり、カード自体にそのレアリティによって記述されていたりする。

本作では、勝利点カード自体も購入する。知っての通り、このカード自体にはなんの効果もなく、ただただデッキに入るだけだ。そしてプレイヤーの邪魔をしてくる。ただそれだけなのだけれど、ドミニオンというゲームルール、バランス、設計からこれを見た時、この点数カードもまた1つの発明なように思える。

まず、勝利点カードの購入は他のカード同様、例外処理なく、まったく同じフローで購入する。アクションカードを購入するように、勝利点を獲得する。これは一見当たり前のようだけれど、ボードゲームとしては珍しいといかないまでも、特殊なものに感じる。「勝利点を獲得する」というのは、特殊な処理を行うものが多い。セットコレクションが完成したら、特別なアクションを実行したら、アクションを放棄してリソースを支払ったら、などだ。それは直感的であるのと同時に、ルール理解への負荷を高めることにもなる。本作ではカード購入というルールに勝利点カードも内包することにより、シンプルさを保ちつつも、今後の拡張なので別の特殊な勝利点カードなども登場させやすくなるような汎用性にも貢献している。

ドミニオンは拡大再生産要素のあるゲームである。デッキが強くなるということは、ターン一回で獲得できる最大効果が大きくなっていくということだ。ドミニオンの拡大再生産要素はデッキに集約される。強いカードを単純にデッキに詰め込んでも、一回のターンで利用できる最大枚数はその時のデッキポテンシャルに左右されるので、何も考えずにカードを購入していくだけでは、その効率を落ちていく。

10枚のカードデッキと、40枚のカードデッキがあったとしよう。一見すると40枚の方が強いように見えるが、その実、このデッキは1ターンで8枚のカードしか使用できないとする。一方の10枚デッキは10枚全てを1ターンで使きることができ、また、デッキはリセットされるので枚ターンその最大効率である10枚の効果を発揮する。

もちろんそのカード等による効果、戦況諸々の要素を含めた状況によって「強さ」は変化するが、最適解が存在するとしたら、そのデッキの内容構成カードは決定づけられることになる。成長限界があるということだ。ではドミニオンに勝つにはその最適解にひたすら進めば良いのか? もちろん違う。

ドミニオンは勝利点を集めるゲームであり、1ターンでの最大効率を競うゲームではない。勝利点を購入する必要がもちろん出てくる。購入したカードはどこに行くのかと言えば、デッキだ。デッキに入ったカードは手札に来る。勝利点カードはなんの効果もなく、邪魔になる。つまりデッキの効果効率を落とす。これはつまり、デッキが弱体化するということだ。先の例でいくと、10枚のデッキに勝利点カードが1枚入ることにより、今まで10枚使い切れていたのが、一気に4枚でカードコンボが途切れる、ということもありえなくはない。これは著しいポテンシャルの低下と言える。

最適化されたデッキほど、この勝利点カードによる弱体化は効果を発揮する。ポテンシャルをすぐに発揮できなくなり、強化するために別のアクションカードの購入が迫られる。どこまで勝利点を買うのか、いつから買い始めるのか、どこまでデッキを強化するのか、どこまで効率化するのか。この選択肢を生み出し、ゲームに多様性をもたせている要素がまさに勝利点カードだと私は思う。

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